2019年11月1日金曜日

茅刈・車座講座(パネルディスカッション)-茅場と茅葺の現状と課題-


 夕食終了後の7時過ぎから二時間半にわたり、多彩なメンバーによる講座と討論が、日本茅葺き文化協会の上野事務局長の進行で行われました。

最初に筑波大学で植物生態学、生態系生態学を専攻し、長野県小谷村で「茅場プロジェクト」を進める廣田充さんより、「半自然草原、茅場をめぐる人間活動の意義を考える:長野県北部の茅場の事例から」と題して基調報告があり、続いて質疑応答及び参加者からの事例報告と進んでいきました。     
 後日、日本茅葺き文化協会より詳細なが作成される予定ですが、概要のみ取り纏めて報告します。
 
 
            写真①廣田さんの基調報告

 
《基調報告》

1.草原、半自然草原の特徴

 飼料や堆肥、屋根材など、かつて草原に求められていた資源の供給が不要になった結果、日本の草原は減少を続けてきたが、現代においては伝統文化の継承の他にも新たな価値や機能が明らかになりつつある。その一つがCOの吸収機能である。

 草原にはCOを吸収し土壌に蓄積する働きがあり、その蓄積量は、主に樹木にCOを蓄積している森林に匹敵する。そのメカニズムは次の通り。
日本の草地に多い黒ボク土は、火山灰にイネ科の植物遺体が混ざり、長い時間をかけて形成される黒色の土壌である。イネ科植物はプラントオパールと呼ばれるケイ酸を多く含んでいるため腐植となっても分解されにくく、土壌に蓄積される。また、火入れで炭化した植物遺体も残るため、炭素が蓄積した黒ボク土が形成されてゆく。
 こうした草原が不要とされ放棄されると、森林化が進んで腐植の化学的性質も変化して分解されやすくなり、土壌の黒味が抜けて褐色森林土に変化していってしまう。

2.茅場プロジェクトの紹介

 半自然草原である茅場が持つ様々な機能を明らかにし、良質な茅を持続的に生産するための方途を探り、そして茅の生産・利用に関する多くの伝統知の科学的な裏付けを得ることを目的に、茅場プロジェクト(正式名称は「農資源としての茅生産に欠かせない茅場の多面的評価」)を立ち上げた。
 フィールドである小谷村の牧の入り茅場では、大茅(ススキ)よりも小茅(カリヤス)が良質とされるが、それらが混在しているため、良質な小茅が集中する場所の特徴を明らかにするための調査研究を進めている。

3.牧の入り茅場の維持に必要な人間活動の影響

 牧の入り茅場では雪解け直後の火入れと刈り取りで草原を維持しているが、ハギ優先区、ススキ優先区、カリヤス(良)優先区、カリヤス(低)優先区の4地点における土壌の「柔らか度」や、窒素・ケイ酸・リン酸などの養分量を測定したところ、土壌が柔らかい方が茅は良質で、養分についても各地点により差が大きいことが明らかとなっている。茅場を維持するための人間活動が土壌にも影響を与えていると思われ、良質な茅を持続的に生産するためにも、他の環境要因も含めた詳細な継続調査が不可欠である。
 
 これまでの調査から一つの仮説を提示すると、高低差のある草原では火入れと刈り取りの繰り返しにより、高い地域から低い地域へと表土が流れて表土の性質が変化し、良質な茅の分布を制限する要因の一つになっているのではないか。だとすれば、茅場を維持するためには、表土が流れにくい刈り取りや表土管理が必要になってくると思われる。

 
《質疑応答及び事例報告》

○青水の草野塾長が上ノ原ではススキの生育の悪い区域に試験的にミズナラ林の腐葉土を散布していると事例報告。廣田さんは、ススキは枯れることで自分のエネルギーを土壌に回収しており、枯れないうちに青刈りすると養分が土に戻らないので、刈り取りの時期を遅らせるという方法もあると説明。

○みなかみ町エコパーク推進課の高田課長が、みなかみユネスコエコパークの中での上ノ原の位置づけや取り組みについて報告。

○群馬県内で文化財建造物の保存に取り組む町田工業の町田社長が、50年にわたる上ノ原での茅利用の経験を踏まえ、昔の方が品質の良かったことを指摘。また、県内に五棟ある茅葺きの重要文化財建造物などに利用するため、一万束の茅を保管していることや、県内の茅場について、最近では中之条にダムの残土を利用して茅場を造成したこと、また中之条の冨澤家住宅の葺き替えでは3600束の茅を使用したことなどを報告。

○青水の西村幹事が『うえのはら お散歩手帳』を使って上ノ原の自然について報告。日本自然保護協会の朱宮さんは、上ノ原の草原としての特徴や価値について、森林塾青水の継続的な活動の支えがある草原であることが特に素晴らしいと発言。
 
 
        写真②西村幹事が「上ノ原」について説明

 
○青水の清水顧問からの茅葺屋根の住宅が数多く建造されているオランダの状況や、森林や草原の持つ機能の貨幣価値についての質問に対して、千人の茅葺職人がいて茅を輸入しているオランダの状況や、生態系サービスを経済的価値に換算する手法について、専門知識を持つ参加者が説明。

○その他、「そうふけっぱら」など千葉県の草原を調査してきた東邦大学大学院の野田さん、地元藤原地区に移り住み上ノ原で活動を続けてきた青水の北山塾頭、住居と人間の健康の関係から百年杉の普及に取り組む加藤木材の加藤社長、猿ヶ京で茅葺き古民家を守る林さん、小谷村で茅葺職人に弟子入りした日大大学院生の塚本さん、庭師として修業する筑波大大学院生の伊藤さんが、それぞれの活動事例を報告。

○最後に茅葺き文化協会の安藤邦廣代表理事が、草原は茅葺き屋根だけでなく、養蚕と桑畑の関係のように馬産とも深く関わってきた。草原と茅葺き民家の問題はそれぞれ単独で考えるのではなく、社会経済的側面から全体像を描き、つなげていきことが大切であると締めくくり、車座講座は終了しました。

また、参考書籍として『茅葺きの民俗学』(1983、安藤邦廣著、はる書房)、『日本茅葺き紀行』(2019、日本茅葺文化協会編、農山漁村文化協会)の二冊が紹介されまた。
 
 
            写真③『茅葺きの民俗学』


            写真④『日本茅葺き紀行』

 

早朝講座(ワークショップ)

 2日目は朝6半に宿を出発し、すぐ近くにある重要有形民俗文化財の雲越家住宅資料館において、早朝講座として茅葺き見学のワークショップ「茅葺き屋根の特徴と茅の使われ方」が行われました。まず、雲越家住宅の保存事業に携わってきた町田社長さんが屋根を指し示しながら、兜造りで芝棟に煙り出しがあり、軒付けに麻が使われている雲越家住宅の特徴を説明。参加者からは、芝棟は萱葺き以前の土葺きの名残であるとか、垂木のピッチが細かいのは雪国の特徴であるなどの話が続きました。

 茅葺き屋根の様式には多様性があり、日本各地でそれぞれ特徴がありますが、意外にも外国によく似た様式も見られたりすることもあると言います。

 その他、日本における茅葺きの始まりと稲作との関係など、一時間ばかりの間でしたが茅葺き談義に花が咲きました。
 
 
              写真⑤雲越家住宅


           写真⑥軒下で屋根の特徴を解説

                         (稲記)

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