2020年12月21日月曜日

隣の芝生は青い? つくばでの茅刈り体験記

 

文化庁ふるさと文化財の森に指定されている茅場は関東地方に2つしかありません。

そのひとつは我らがみなかみ町藤原上ノ原ですが、もうひとつの茅場はどこの里山にあるかと言うと、なんとつくばの「高エネルギー加速器研究機構」という科学の最先端施設の中にあります。

上ノ原では例年10月に刈り取りを行いますが、それよりずうっと温かく大雪の心配のないつくばでは毎年12月に行われており、一般社団法人日本茅葺き文化協会が19日にひらいた茅刈りワークショップに参加してきました。

参加の動機は3つあって、一つは高エネルギー加速器研究機構という超近代的な施設と伝統的な茅刈とのミスマッチの妙をこの目で見たかったこと、もうひとつは上ノ原では行っていない機械刈りを見て上ノ原に適用できないか考えたいという興味。一つ足りない? あ、それは、茅刈りを楽しみたかったから。


入り口のゲートでチェックを受けて入っていくと(広大だから車で!)、まるでどこかの化学工場に入り込んだかのよう。

まわりには、周長3kmの衝突型円形加速器が設置されており、80億電子ボルトの電子と35億電子ボルトの陽電子が走りまわっており、その内側の面積は約150ヘクタール、東京ドーム33個分だとのこと。いくつかの建物を除いて全部が茅場だとすごいな、と思っていましたが、茅の優占する場所は2ヘクタールほどで、ここを茅場として提供をうけているようでしtた。

 左は変電設備? 後ろは霊峰筑波山

さて、茅刈ですが、地元茅葺オーナーたちは機械刈り、我々一般ワークショップ組は手刈りと2か所に分かれて行いました。

機械刈は、どうやったら同じ方向にそろうのだろうかと思って観察しましたが、(たまたま見た例では)刈払い機を操作する人の横に、長い棒を持った人が付き添い、ちょうど床屋さんがくしで揃えながら切るようなやりかた、ほかに伐った茅を拾って束ねる人、これを運ぶ人と、3-4人一組で作業していました。

斜面では、床屋さん式もむずかしいでしょうし、上ノ原ではやはり手刈りのほうが安全で効率的かな、というのが感想です。

あと面白かったのは、バインダー(コンバインの小さいやつ)での刈り取り。稲敷市霞ヶ浦湖畔には背の低いシマガヤの茅場があり、そこでは以前から稲刈用のバインダーを使っているそうですが、ここでもできないかと試行したとのこと。途中つる草などがあると停まってしまいましたが、おおむねうまく刈れていました。数センチくらいの小さな束を自動的に吐き出すところが面白い。平地の強みです。








Mede by Iseki (バインダーが産んだ茅束)



手刈りは初心者対象のせいもあり、鎌で刈る人、縄で束ねる人の2人一組でおこなわれました。茅は完全に枯れて硬くなっており、茅で縛るわけにはいきません。縄で縛るので、一束は上ノ原のより1.5~2倍くらいの大束、すでに十分乾燥しているのでボッチ立てはせず、そのままトラックに積み込まれました。

平地なので姿勢は楽だし、茅は湿っていないので軽くて扱いやすいのですが、1本1本が太く硬く、刈り取り作業は結構大変でした。そもそも、完全に枯れていて人間味がない、太くて可愛くない。そう思うのは身びいきですかね。

うらやましかったのは、アクセスが良いこともあり、筑波大の学生さんや、近所の石岡市などに茅葺を積極的に残そうとするオーナーさんたちがおられ、これらが多数参加されたこと。茅の可愛さや、刈る手を休めて眺める景色の良さは絶対負けないんだけどな。

ここでの悩みは、場所柄火入れができないこと。それと、セイタカアワダチソウや、イネ科のなかでもトダシバやメリケンカルカヤといった外来種が勢いを増し、年々劣化しているとのことです。(考えられる主な原因は富栄養価、土壌の劣化ではと言われています。土壌も上ノ原のようなクロボク土になっていません。)

夕方、筑波大廣田先生によるレクチャーがありました。茅草原の価値についての話は以前からも随所で教わってきましたが、炭素循環の観点から詳しい納得感のある説明がをいただき、非常に有益でした。

今回、よそと比較することて学ぶことが多くありました。

ちょうど前々日の17日、ユネスコの無形文化遺産として「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」が登録されることになったとのニュースがはいりました。対象は「かやぶき、古式の木工技術など木造建築に関わる17件(14団体)」で、対象になった日本茅葺き文化協会は意気軒高でした。今後も、連携、協力しながら、貴重な自然資源、文化遺産を次の世代につなげていけたらいいなと思った次第です。

(松澤記)



2020年12月5日土曜日

    2020茅出し・「山之口終い」神事・「ゆるぶの森」散策

  右往左往する人間をあざ笑うかのようにコロナの勢いは収まらず、第3波が猛威を振るっています。それでも何事もなかったように、季節は巡り、初冬を迎えてしまいました。茅場の作業としては、今年度最後となる「茅出し・山之口終」を112122日に行いましたので報告します。

10月末から11月中旬にかけて刈り取って寒風に晒した茅ボッチを道路端まで引き出し、トラック積みする「茅出し」そして、収穫と作業の安全に感謝する神事をおこなう「山之口終い」。

はじまりの式の後、茅刈検定の認定書を久保田さんと小池さんに手交して作業にかかった。

小池さんに茅刈検定認定証の授与

久保田さんの認定証

茅ボッチは、茅刈イベントで刈ったもの、その後23日の居残りで刈った合宿刈り、今年は113日に降雪があって茅が寝てしまって地元茅刈衆のボッチは少ないと聞いているが、それでも推定700ボッチはあるはずであり、それを確定するのも今回の作業の目的の一つ。それらはボっチを見るとわかる。ボランティア刈りは倒れているものが多いが地元茅刈衆のものは倒れず凛として立ち、上ノ原の風景に溶け込んでいる。合宿刈のボッチも地元衆のものと遜色ないところまで上達した。現地に着くと地元茅刈衆の刈ったボッチ数の報告があり、それによると492ボッチ(2460束)となっている。

今回の参加者は18人なので一人40ボッチを曳きださなければならない。昨夜の雨でぬれて重いことも考えると、今日中に終わることは無理かと思ったが、若い人も多く、皆さんの頑張りで曳きだしは16時ごろには終了した。配車された町田工業のトラック2台に積み込んで約半数を送り出す。残りは明日以降の運搬となる。夕方になるとやはり冷え込んできた。

乾燥して凛と立つボッチが茅場風景を引き立たせる

両肩に穂先を持って曳きだす

トラックに積み込んで世に出す


作業が終わって笑顔で

本日の宿は「民宿関ヶ原」

 感染防止のために、いつもの交流会は中止、夕食時に酒席を含めて少し長めの食堂の使用と席も密にならないように女将さんにお願いした。いつもより静かな夜は冷え込んで、朝、起きてみると真っ白な霜が一面に、霜柱も立っている。

 2日目は、十二様の前をきれいにして、しめ縄を張り、「山之口終い」の準備したあと、「ゆるぶの森」の散策に時間をかけて行った。

 コースは、この森で一番初めに若返り伐採をした「壮齢の森」で伐採した後の明るい森の状況を見て、キノコを種菌したところでキノコの採取、そしてブナの木のある森へ、この森にはブナが多くあっても不思議ではないがなぜか少なく3本、それでもブナの稚樹が頑張って育とうとしてる姿が見れる。途中、樹名板の付いた樹々で説明、動物の足跡もあって話題に事欠かない。この森は、適度な伐採もしているので林業のことも話せる。尾根に行くほど森の様子の違いや火入れなどの人の営みが作った土壌のクロボク土が露出しているところもあって話は縄文時代に飛ぶ。3分の1ほど行くと峠、茅場と集落と谷川岳、白毛門、笠ヶ岳、朝日岳の眺望がすばらしい、ビューポイントで休憩。此処では今年のススキの出来具合やススキの受粉のメカニズムなどを話題した。峠からは茅場に向かって下り、そこから十郎太沢を通って木馬道、もう一つのビューポイント、此処からは茅場が一望できる。そして北山さんが藤岡さんの白炭窯に到達、精錬(ねらし)に入った窯を見ながら炭焼きの作業工程などにについて説明。約2時間、3.5kmほどのコースである。

キノコのホダギで説明


食べ頃のナメコ

ビューポイントから茅場を一望


炭窯(白炭)

 このゆるぶの森では、34本のコースが散策でき、いずれも森のチカラの魅力にあふれている。散策のみでなく、今回のように茅場作業との組み合わせでココロとカラダを癒す森林浴を楽しむことが出来る。ぜひココロの病などのカウンセリングに使ってほしい。

この後、「山之口終い」神事を行い。今年の無事に終了したくさんの自然の恵みを得たことに感謝して今年度最後の茅場作業は終了した。

十二様に感謝

最後に今年の茅刈数を報告します。

  イベント刈  425束(85ボッチ)

  合宿刈り   550束(110ボッチ)

  藤原茅刈衆2,460束(492ボッチ)

 合計   3,435束(687ボッチ)

今年も目標の3000束(古民家一棟分)を世に出すことが出来ました。

                            文責 草野