2016年7月6日水曜日

土呂部の草原を訪ねて


2016618日、森林塾青水の一行は、いつもの上ノ原の草原ではなく、栃木県日光市(旧栗山村)土呂部の草原で汗を流していた。これは昨年から始まった流域連携活動の一環として、同じ関東地域で草原保全活動を実施している「日光茅ボッチの会」の活動をお手伝いするために企画されたイベントであり、後で聞いた話だが、先着12名の募集はすぐに予約で埋まってしまうほどの人気イベントであったという。

参加者のほとんどが土曜日の朝一番に首都圏を脱出し、東武鬼怒川線で鬼怒川温泉駅へ。都心から電車1本(約1400円)で気軽に行けるのも魅力の一つだろう。駅へ到着したのは10時過ぎ、それからレンタカーで小一時間、ようやく日光茅ボッチの会が管理する土呂部集落の草原にたどり着いた。目の前に見える草原は上ノ原の草原よりは少し狭く感じた。しかし、関東地域に草原があることがすでに奇跡的な現在、わずかでも草原が残されていることに私はとても気分が高揚した。昼食を食べ、早速お手伝いを開始する。この草原は、上ノ原のフィールドと同様にしばらく放置され森林化がわずかに進んでいた場所もあるため、草原の中に樹木の侵入がみられた。また、シカの食害も深刻らしく、その対策のため、電気柵が草原の周囲に張られていた。そこで、森林塾のメンバーは日光茅ボッチの会のメンバーと手分けして、侵入樹木の伐採、散策路の整備、電気柵の周辺の草刈り等を行うことになった。私は電気柵周辺の草刈りをしたのだが、電気柵の総延長は1km以上あり、2手に分かれたとはいえ、なかなかの距離があり夜のビールを美味しくさせるには十分な距離であった。この長い電気柵を設置し、電気柵に伸びた草が触れることの無いように(電気柵に草が触れると、電気が逃げてしまうため)約10日に1回のペースで草刈りを行っているという日光茅ボッチの会の活動力には頭が下がる思いがした。
 
電気柵下の草刈と点検補修
 
 
 
2~3時間ほどの作業後には、どこから出てきたのか、冷たく冷えた缶ビールを振舞ってもらった。聞くと、草原の端に湧水地があり、そこで冷やしていたとのことであった。この湧水地は「カッパ(刈場)の泉」と言うらしく、次の日に見に行くと、綺麗に整備された湧水地があり、コップが置いてあった。水を飲むと上ノ原の水に負けず劣らずキリッと冷えた美味しい水であった。
 
刈場(カッパ)の泉
 

夜はお待ちかねの懇親会、ビールだけではなく、地域の人が持ち寄ってくれたどぶろくを飲みながらの懇談となった。日光茅ボッチの会の皆さんは、自然が好きというのもさることながら、茅ボッチの会の会長さんの飯村さんのファンが多く、飯村さんのソフトな人当たりや熱心さが草原を守る力になっていることを実感した。

次の日は少し離れた別の草原の見学に行った。そこには上ノ原のフィールドにはない“以前から見たかった憧れの高貴な花”やフナバラソウという全国的にも絶滅が危惧されている植物がちょうど開花しており、それらを見させてもらうことができた。おそらく10年ほど前までは、もっとたくさんの場所で見られたであろうそれらの花は、数年前にはわずか数個体となっていたが、日光茅ボッチの会の尽力により、個体数を少しずつ回復しているという。また、ニッコウキスゲやヤマトキソウ等の植物も花を咲かせており、初夏の草原に色を添えていた。

イベントの最後には美味しい手打ちそばが待っていた。草原からわずか車で3分くらいの場所にある「お食事処 大滝」は天ざるそばが絶品であった。山菜と地元産の岩魚の天ぷらが盛られて、お蕎麦もボリュームたっぷり、さらに100円で大盛にできるというコスパの良さであった。12日という短い時間であったが土呂部の美しい草原、そこに咲く花や、それを守る人の良さに触れることができたとても楽しい活動となった。みなさんもぜひ来年こそは参加してみては?

※写真は日光茅ボッチの会Facebookより引用しました。https://www.facebook.com/kayabotti/

 

‐上ノ原の草原と土呂部の草原の違い‐

上ノ原と土呂部の草原は直線距離にして約43kmしか離れていません。でも、ずいぶんと違った印象をうけました。そこでフィールドを訪れて気づいた点を挙げておきます。次回の散策の参考になれば嬉しいです。

■管理の履歴について

上ノ原の草原は約40年前に放置。土呂部の草原は現在まで草刈りが継続。特に10年ほど前までは広範囲で草刈りが行われていた。

■かつての管理方法について

上ノ原は集落の入会地という形でみんなで使っていた。土呂部は草原が短冊状に区画分けされ、個人が使う範囲が決まっていた。

■草原を放置した際の侵入木について

上ノ原はタニウツギがたくさん。土呂部の草原にはタニウツギは侵入していない(そもそも分布しない)その代わり、シラカバやヤマナラシが多く侵入。

■二次林の違いについて

上ノ原はミズナラ林。土呂部はクリが多く、次いでコナラが多い印象。上ノ原と標高もさほど変わらないが、ミズナラは少ない。

■草原について

上ノ原はススキが優占。土呂部は上ノ原に比べススキの密度が低くワラビが多い。特に毎年草刈りをしているところはワラビが多く、草丈や草の密度も低い印象。土呂部の草原にはフナバラソウやニッコウキスゲ、ホタルサイコ、セイタカトウヒレンをはじめとして上ノ原には見られない草原性植物が豊富な印象。

■雪について

上ノ原は2mを超える年がほとんど。土呂部は寒いが雪はあまり積もらない。積もっても40~50cm程。
 
                                                  増井記

 

 

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