2013年度第1回東京楽習会に参加し、利根川水系の下流域にあたる茨城県菅生沼と、その西側に立つ茨城県自然博物館を訪ねました。同館企画課長の小幡和男さんは、今年4月の森林塾青水総会などで講師を務めてくださったことがあり、この日も沼周辺の案内を引き受けていただきました。
菅生沼は南北約5km、東西の幅300~600mの谷状の湿地です。面積は約230haで、県の自然環境保全地域に指定されています。沼には飯沼川、江川、東仁連川が流入し、2km余り下流で利根川に合流します。大雨で利根川が増水すると、利根川からの逆流を防ぐ目的で、菅生沼の下流にある法師戸水門が閉鎖されます。すると沼に流入した飯沼川などの水がせき止められるため、沼の水位は高くなります。こうした時に、上流から運ばれてきた大量の泥が、沼にたまっていきます。1994年の博物館開館時、館の前には広い水面が広がっていたそうですが、泥の堆積が進んだ結果、水面は大きく減少して、ヤナギ類などの生えた陸域が目立ってきているそうで、ここ20年ほどの間にも、刻々と姿を変えているとのことでした。かつて洪水で運ばれた泥や繁茂した水草は、冬場の「どろとり」と夏場の「もくとり」によって沼から周辺の農地へ肥料として持ち出されていましたが、こうした作業が途絶えてしまったことも、沼の変化を加速しているのかもしれません。
博物館から対岸までは、「菅生沼ふれあい橋」という木橋がかかっており、この橋を渡りながら、小幡さんから沼の植生に関する説明を受けました。
水辺を好むヤナギ類のうち、ここで見られるのはマルバヤナギ、タチヤナギ、カワヤナギです。マルバヤナギは新芽が赤いのでアカメヤナギとも呼ばれます。湿地環境に育つイネ科の草本類も多く、特に目立ったのは水際を好むマコモ、その内側に生えるヨシ、さらに陸側のオギといったところ。フランクフルトソーセージのような穂を付けるガマ類も3種類(ガマ、ヒメガマ、コガマ)が観察できるそうです。全国の水辺や河川敷には侵略的な外来種がはびこって問題になっています。ここ菅生沼も例外ではなく、高さ数mに育ったオオブタクサや橋の欄干に巻きついたアレチウリの姿も見ることができました。
この日は観察できませんでしたが、全国でも菅生沼と渡良瀬遊水地くらいでしか、まとまって自生していないとされる希少植物(絶滅危惧Ⅱ類)がタチスミレです。オギやヨシの中に育ち、スミレなのに草丈が時に1mにもなるというから驚きです。河川の氾濫原などが本来の生育地なので、今では草刈りや火入れといった人の手による攪乱がなくなると、その存在も途絶えてしまいかねません。小幡さんたちは、菅生沼のタチスミレ個体群を守ることを大きな目的として、2003年から草地の野焼きに取り組んでおられます。2014年には1月26日の実施を計画しているそうです。
(米山正寛)
・湿地の植物を間近に観察できる「菅生沼ふれあい橋」
・菅生沼の東岸から西方向を見た光景。列状に並ぶヤナギ手前あたりが、野焼きされている草地だ
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