2017年5月4日木曜日

総会セミナー「過疎の村と東京二拠点移住の可能性」

 森林塾青水は415日(土)、第16回総会に引き続き、講師に夏目啓一郎さんをお招きしてセミナーを開催しました。夏目さんは現在36歳で、映像技術会社勤務を経て2007年から映像(動画)を主とするフリーカメラマンとして活動中の方です。2年近く前に、私たち青水が活動する群馬県みなかみ町藤原地区へ、埼玉県さいたま市から家族(妻と息子)とともに移り住むとともに、ご本人は東京都府中市にも住居をかまえて東京での仕事もこなすという生活をされています。藤原を盛り立てているNPO法人奥利根水源地域ネットワークの活動にも参加し、「藤原の住人を増やしたい」と熱意を燃やす夏目さんに、得意の映像や写真、音楽を交えながら、実践中の2拠点移住の可能性をテーマに語っていただきました。

藤原の魅力を交えての体験談を語る夏目さん

冒頭から「移住が流行っていると、毎日のように聞く。でも、それは幻想だと思う」と夏目さんは切り出しました。男性はロマンを求めて前のめりになりがちなのに対し、女性は「買い物は、病院は、教育は、大丈夫なの?」と現実を見ているようです。移住という夢を抱いても、さまざまな現実の前に夢を打ち砕かれる人もいるでしょう。だから「いきなり冒険する必要はない」というのがアドバイスであり、体験に基づく一つの提案が2拠点居住なのだそうです。

 
人生では、自分の置かれている状況は大きく変わることがあります。災害の発生とか、親の介護への対応とか、子育ての悩みとか、いろいろと想定はできますが、拠点が二つあればうまく立場を切り替えることが可能になるかもしれません。夏目さんは「仕事は面白いし、収入も悪くない。マスコミ関係なので、それを東京以外でやるのは難しい。でも震災を経験して都市生活はハイリスクだと感じたし、子どもをのびのび育てたいという思いもあった」ということで、その活路を2拠点居住に見つけたわけです。妻子をみなかみ町藤原に構えた自宅にすまわせながら、ご自身は東京都府中市のセカンドハウスも使って生活しています。だいたい毎月2週間以上は仕事のため東京にいることが多いようですが、仕事がなければみなかみ町へ戻って、ご家族と過ごされています。
 
 みなかみ町での居住を決めたのは、①自然の豊かさと人の良さ、②交通アクセスの良さ、そして③家賃の安さ、だったとのこと。①は森林塾青水の活動を通して、私たちも同感ですね。動物が身近に見られる暮らしを「リアルサファリパーク」と呼んでおられました。②は上毛高原駅から上越新幹線が使えることで、大宮駅まで最短なら40分ほど、東京駅も1時間余りです。ただし、新幹線を使って都心に出ると在来線利用に比べて倍ほどの運賃・料金がかかります。そこでもっぱら新幹線乗車は高崎駅までにして、その先は在来線を使うという工夫をしているそうです。高崎から東京方面は、在来線の運行本数も多いので問題はないようです。③の家賃相場は、過疎地の藤原では都会に比べると、何分の一かという額です。夏目さんは3LDKの家(駐車場3台分+畑付き)を借りておられます。府中では亡くなったお祖母さんの家を安く借りており、2軒合わせても、さいたま市で住んでいた時の家賃に比べると格安なのだそうです。
 
 みなかみ町で暮らすようになり、本業のカメラマン以外に、スキー&スノボのインストラクター、カヌーガイド、キャンプインストラクター、尾瀬&苗場山ガイドなど、いろいろな仕事を経験されました。また「妻は民宿の手伝いやキャンプ場、スキー場の仕事をしてくれている」とのこと。通年雇用の仕事を得るのはなかなか難しいようですが、今では「一つの仕事を極めるより、いろいろな仕事をこなせるという生き方もある」と考えているそうです。結果的に収入は少し減ったそうですが、食費が安くつくことや、家族で遊びに行くコストがかからなくなった(遠出をせずに町内で遊べるし、特にリフトがほぼタダで乗れるので年間のリフト券代が浮いた、などが理由)ことで、家計の状況は変わっていないと話されました。
 
 もちろんデメリットと言えることもあります。貸家のリフォームにはドーンと費用負担がかかりました。屋根、床、壁、窓、畳などを修理するのに、業者に依頼したり友人の協力を得たりして作業を進める中で、コスト軽減のため電気配線は自分で張り直したとのこと。窓の2重サッシや流し台は業者を通さずにインターネットで探すと、半額くらいで買えたそうです。車は必要に迫られて1台から2台に増やし、除雪機(新品の十分の一以下の値段で中古を手に入れたものの、故障には泣かされたようです)も一家に1台が必需品なので購入せざるを得なかったようです。除雪には11-2時間を要するため、体力がないと暮らしていけない土地柄ですが、体力は「やっていれば勝手についてくる」というのが実感だそうです。このほか、東京との行き来にもコストと時間がかかります。でも、「デメリットを上回る体験をしている」と前向きに受け止めておられました。
 
 みなかみ町藤原の人口は現在約400人。夏目さん一家の後にも、2家族6人と独身者3人が移住してきているのですが、スキー場の従業員にも町外から通ってくる人が多く、もっと住人を増やすことが暮らしている立場からの大きな望みのようです。「もともとの藤原の人たちには、都会の人が面白いと思うことが感覚的に分からないようだ。でも移住者は、その感覚を持っているので観光客相手の仕事には向いているはず」と、移住者にはその強みを生かしてもらいたいと考えておられます。そのためには、まず都会から観光客に来てもらうこと。そして夏の客には冬の遊びを、冬の客には夏の遊びを提案し、リピーターを増やしていくこと。そのようにして藤原ファンを増やしながら、地元との交流や異業種と関わる機会に参加してもらい、移住者が移住者を呼び込むという循環を築くのが、これからに向けた展望だそうです。お話の中には、藤原やみなかみ町に対する有意義ないろいろな提案も含まれていました。
 
 こうした努力が実を結べば、青水塾頭の北山さんのようにどっぷり藤原に生活拠点を移す人も現れるでしょうし、夏目さんのような2拠点居住を選ぶ人も生まれるのかもしれません。藤原に新しい風を吹き込み、青水の活動にも協力してくださっている夏目さんを、ますます応援したい気持ちになりました。 
                            米山 記
 
 

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