文化庁ふるさと文化財の森に指定されている茅場は関東地方に2つしかありません。
そのひとつは我らがみなかみ町藤原上ノ原ですが、もうひとつの茅場はどこの里山にあるかと言うと、なんとつくばの「高エネルギー加速器研究機構」という科学の最先端施設の中にあります。
上ノ原では例年10月に刈り取りを行いますが、それよりずうっと温かく大雪の心配のないつくばでは毎年12月に行われており、一般社団法人日本茅葺き文化協会が19日にひらいた茅刈りワークショップに参加してきました。
参加の動機は3つあって、一つは高エネルギー加速器研究機構という超近代的な施設と伝統的な茅刈とのミスマッチの妙をこの目で見たかったこと、もうひとつは上ノ原では行っていない機械刈りを見て上ノ原に適用できないか考えたいという興味。一つ足りない? あ、それは、茅刈りを楽しみたかったから。
入り口のゲートでチェックを受けて入っていくと(広大だから車で!)、まるでどこかの化学工場に入り込んだかのよう。
まわりには、周長3kmの衝突型円形加速器が設置されており、80億電子ボルトの電子と35億電子ボルトの陽電子が走りまわっており、その内側の面積は約150ヘクタール、東京ドーム33個分だとのこと。いくつかの建物を除いて全部が茅場だとすごいな、と思っていましたが、茅の優占する場所は2ヘクタールほどで、ここを茅場として提供をうけているようでしtた。
さて、茅刈ですが、地元茅葺オーナーたちは機械刈り、我々一般ワークショップ組は手刈りと2か所に分かれて行いました。
機械刈は、どうやったら同じ方向にそろうのだろうかと思って観察しましたが、(たまたま見た例では)刈払い機を操作する人の横に、長い棒を持った人が付き添い、ちょうど床屋さんがくしで揃えながら切るようなやりかた、ほかに伐った茅を拾って束ねる人、これを運ぶ人と、3-4人一組で作業していました。斜面では、床屋さん式もむずかしいでしょうし、上ノ原ではやはり手刈りのほうが安全で効率的かな、というのが感想です。
あと面白かったのは、バインダー(コンバインの小さいやつ)での刈り取り。稲敷市霞ヶ浦湖畔には背の低いシマガヤの茅場があり、そこでは以前から稲刈用のバインダーを使っているそうですが、ここでもできないかと試行したとのこと。途中つる草などがあると停まってしまいましたが、おおむねうまく刈れていました。数センチくらいの小さな束を自動的に吐き出すところが面白い。平地の強みです。←Mede by Iseki (バインダーが産んだ茅束)
手刈りは初心者対象のせいもあり、鎌で刈る人、縄で束ねる人の2人一組でおこなわれました。茅は完全に枯れて硬くなっており、茅で縛るわけにはいきません。縄で縛るので、一束は上ノ原のより1.5~2倍くらいの大束、すでに十分乾燥しているのでボッチ立てはせず、そのままトラックに積み込まれました。
平地なので姿勢は楽だし、茅は湿っていないので軽くて扱いやすいのですが、1本1本が太く硬く、刈り取り作業は結構大変でした。そもそも、完全に枯れていて人間味がない、太くて可愛くない。そう思うのは身びいきですかね。
うらやましかったのは、アクセスが良いこともあり、筑波大の学生さんや、近所の石岡市などに茅葺を積極的に残そうとするオーナーさんたちがおられ、これらが多数参加されたこと。茅の可愛さや、刈る手を休めて眺める景色の良さは絶対負けないんだけどな。
ここでの悩みは、場所柄火入れができないこと。それと、セイタカアワダチソウや、イネ科のなかでもトダシバやメリケンカルカヤといった外来種が勢いを増し、年々劣化しているとのことです。(考えられる主な原因は富栄養価、土壌の劣化ではと言われています。土壌も上ノ原のようなクロボク土になっていません。)
夕方、筑波大廣田先生によるレクチャーがありました。茅草原の価値についての話は以前からも随所で教わってきましたが、炭素循環の観点から詳しい納得感のある説明がをいただき、非常に有益でした。
今回、よそと比較することて学ぶことが多くありました。
ちょうど前々日の17日、ユネスコの無形文化遺産として「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」が登録されることになったとのニュースがはいりました。対象は「かやぶき、古式の木工技術など木造建築に関わる17件(14団体)」で、対象になった日本茅葺き文化協会は意気軒高でした。今後も、連携、協力しながら、貴重な自然資源、文化遺産を次の世代につなげていけたらいいなと思った次第です。
(松澤記)
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