2015年6月30日火曜日

継続はタカラ 茶草場農法が育む自然


 東海道新幹線を名古屋方面に向かうと、静岡駅を過ぎ掛川駅に到着する前の右側の小高い山の頂上付近に鮮やかな緑の「茶」の文字が見えます。茶処の象徴ということは分かっていましたが、見るたびに近くで見たいと思っていた風景でした。

粟ヶ岳の茶文字
 6月28日、全国草原再生ネットワークの総会が掛川市で開催され、そのエクスカーションで掛川市東山・日坂地域の茶草場農法を視察する機会を得て、茶文字のある粟ヶ岳(532m)にのぼるとともに、その文字と周辺の風景に秘められた日本農業の真髄を見ることができました
東山地区の風景は、茶畑、里山森林、草場、集落が織りなすモザイク風景であり、日本の原風景を堪能できますがその風景を醸し出しているのは江戸末期からといわれる営々と営まれてきたお茶栽培と草場の伝統農法であり、「茶草場農法」と呼ばれています。
茶畑、集落、茶草場、森林のモザイクが美しい

現地では、茶栽培農家の杉山さんと農業環境技術研究所の楠本さんに案内していただきお話を伺いました。以下、説明いただいたことを私なりに整理したものです。
茶栽培農家の杉山さん

研究者の楠本さん


「茶草場農法」の「茶草場」とは、茶園に有機物として投入するササ、ススキ、雑草を刈り取るための茶園に隣接あるいは共有地の半自然草地のことです。

笹とススキの茶草場


茶草場は、積極的に草を利用するため、茶畑の周辺に点在する静岡県の特徴的な風景ですが、それら草地には希少種を含む多くの草地性の植物が生育する環境となっています。

茶栽培農家は、より高品質なお茶を生産しようと当たり前に継続してきた営みがいきものを守っていて、農業と生物多様性が同じベクトルを持ち両立していることが国際的に評価され、2013年に世界農業遺産に認定されました。

 世界農業遺産とは、国際連合食糧農業機関(FAO)が世界的に重要な農業や土地利用のみならず、生態系や土地景観、習慣、伝統文化など農業に関する文化的な要素も含め次世代に継承すべきものとして認定するもので、2014年5月現在、世界では13か国31か所、日本では、新潟県佐渡地域(トキと共生する佐渡の里山)、石川県能登地域(能登の里山里海)大分県国東半島(クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産環境)、熊本県阿蘇地域(阿蘇の草原の維持と持続的農業)があります。

 静岡の茶草場農法は、晩秋から冬(11月~2月)に茶草場の草を刈り乾燥させ、裁断して、茶畑に投入するもので、その効果は、お茶の味に表われ、特に一番茶の味がよくなるそうです。

茶畑にとっては、刈草の投入により、土壌の保湿、保温、土壌動物や微生物の繁殖による土質改善、堆肥効果、肥料持ちが良い、降雨による土壌の流出防止、雑草の繁茂抑制、など土壌条件の改善効果があります。そして、草地にとっては毎年の刈取りにより半自然状態が維持され、生物多様性が保全されることになります。この関係は、「茶生産が草原を守り、草原が茶生産を守っている」ということになります。加えて、地域文化の形成にも貢献しています。
その効果は土壌に


ここの茶草場には、万葉集に詠まれている植物が当たり前のように生育しており

ここで見られる希少な生物として次のようなものがあります。

植物では、フジタイゲキ(静岡県固有種絶滅危惧Ⅱ類)、アキカラマツ、ワレモコウ、ハルリンドウ、ササユリ、ヤマハギ、リュウノウキグ、ヒオウギ、カワラナデシコ、オカトラノオウなど、昆虫や動物では、カケガワフキバッタ(新種)カモシカ、サシバ、モリアオガエル、などです。

実際、フジタイゲキ、ユウスゲ、カキラン、ノハナショウブ、オカトラノオウ、コマツナギなどを見ることができました。
フジの名前を持つフジタイゲキ

ササユリは時季を過ぎて

ノハナジョウブ

ワレモコウの花は未だ

ユウスゲ

トラノオウ

カキラン

コマツナギ

 
 茶草場農法のキャッチフレーズはわかりやすく「茶草場農法が育む自然」「豊かな生物多様性を育み、環境と共生する伝統農法」となっています。

しかし、一方では課題もあります。それはこの農法を継続するには農家の方の相当の労力が費やされることです。特に、急傾斜地での冬場の作業は口では言えない苦労があるようです。

東山地区の茶草場は、茶園182haに対して草地130ha、総面積312haの40%が草地となっています。そして、草地を利用しない場合、出荷組合の規定により売り上げの20%を徴収するペナルティーなども設けて伝統農法を守る努力が続けられています。

この茶草場農法は、伝統的農法ですがこれからの農業の方向性を示唆しています。これの継続のためには、後継者の問題もありますが茶の生産が継続しなければ成り立たないということですので茶の需要が増え、適正な価格により所得が安定しなければなりません。そのほかブランド形成や環境支払、グリーンツーリズムなども取り入れています。

・ブランド化 茶葉シール(ラベリング)三葉 茶草場面積/茶園面積=50%以上

                   二葉          =2550

                   一葉          =525


グリーンツーリズムも実績があるようで滞在した掛川市中心部のホテルで秋冬限定の「茶草場ツーリズム」というチラシを見かけました。
参考になる看板のスタイル

 

今回の視察で、継続が力であることを実感しました。上ノ原も半自然草原です。茶草場農法は業としてつづけた結果です。
 上ノ原の場合、業としての位置づけがないのが弱点ですが茅の生産という営みにより生物多様性を確保する茅場として、野焼きや茅刈などを営々と続けていけばいつか脚光を浴びることもあるだろうとの希望も湧いてきました。

 その時のキャッチフレーズは「茅刈・野焼きが守る茅場、育む生き物」としたいですね。
                               草野記

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